「一発お願いします」がないから、楽じゃないけど楽
  
——その家族のおとうさんが久保さんですが……
山内
 ご一緒するのは初めてなんです。
片桐
 あ、そうなんですか。
  
久ヶ沢
 ぼくはG2さんとこで、ご一緒させていただいて、たいがい最後に死にますね(一同笑)。今回も、死なないまでも、死ぬ可能性大、っていう……G2さんの言い方がひどくて「酎さんは、ぼくの中では死ぬ老人なんだよ」って。
片桐
 ひどい(笑)。
山内
 仁に、ホンマに台本のとおりにやればいいと思うよって話をしたのは、久保さんがね、最初からそうなんですよ。書いたあるセリフをそのまま、なんて言うかな、魂入れてしゃべるか、ということをやってらして、そっちのほうが見えてくるものが多いな、って思ったんです。なんやろ、演ってる人間が、この構造の遊び方を親切に伝えようとか思わずに、そこにちゃんと生きなきゃいけないっていう、演劇の本質に近いことですけど、それを久保さんがすばらしく演っておられますよね。
片桐
 なにも言わずに、ね。
山内
 先輩として、非常に尊敬できる方だな、と思いましたね。
  
——妹さん(大和田美帆)はいかがです?
山内
 あの子もまたね、まっすぐな子でね。迷いがないというか、真正面からセリフに向き合ってる。ぼくなんか、セリフを言うのに、小細工したろかなって思ったりするんですけど、あの子のように、そういうのが価値観の中になくて、まっすぐに演る人を見ると、ものすごく自分が汚れてるなぁって(一同爆笑)。
片桐
 今回のお芝居の役割もあるでしょうね。おとうさん(久保)と三菜子(大和田の役名)が、おとうさんと三菜子でいてくれるから、成立してるっていう……
山内
 そうやね。
久ヶ沢
 銀二も銀二でいろよー。
片桐
 (その言葉)お返ししますよ。50歳でいてくださいよ。
久ヶ沢
 50歳でいようとするから、ギャップで苦しんでるんだよ。
片桐
 久ヶ沢さん、自分のこと何歳と思ってるんですか?
久ヶ沢
 いや、年齢のとおりに演りたいんだけど、今まであんまり実年齢で演ってないから……
片桐
 ハリウッドスターみたいですね(一同笑)。ぜんぜん年をとらないですからね、トム・クルーズとか。
久ヶ沢
 ホントに演ったことがないから、ずーんといなきゃならない役って。
片桐
 でも、おもしろいですよね。
久ヶ沢
 うん、すごくおもしろいし、なんにもやらなくていいから楽ね。
片桐
 ホントに楽なんですか?
久ヶ沢
 楽じゃないけど、楽(一同笑)。求められることを、そのまま丁寧にやっていけばいいから。
片桐
 そうです、そうです。でも、楽じゃないと思いますけどね。
久ヶ沢
 それはもう、やったことない役だし、ギャップもすごくあるから、楽じゃないんだけど。おもしろいなーと思って。
  
片桐
 そういうキャスティングで呼んでくださるG2さんが、ありがたいなーって思うんです。ぼくは、やっぱりこういう見た目だし、お笑い出身だっていうのがあるんで、いつも、どうしてもこう「求められるのかな?」って探りますからね。
久ヶ沢
 「一発お願いしますよ」みたいなね。
片桐
 ええ。(G2作品では)そうじゃなく、やれるので。

相手が受け身をとれるから、技をかけられる
  
——家族の弁護士として出てくるのが、岩井秀人さんですね。
久ヶ沢
 岩井くんは、おもしろい人ですよ。
片桐
 AGAPE storeの最終公演(『残念なお知らせ』)でも、G2さんの演出で一緒にやったんですけど、あのときと同じキャラですよね。
久ヶ沢
 ああ、そうね。
片桐
 今回は家族の話だし、設定は違うけど、外からやって来る不穏な空気を持った人、というのが(似ている)。
山内
 すごく真面目ですよね。細かいところでね、ごっつ地道な努力をしてる。
(舞台上に)入ってきて、池を見る、その見方とか、特にダメ出しがなくても、「これで成立してるんやろか?」ってつねに自問自答しながらやってる感じがありますね。だから毎日、若干ちゃうんですよ、彼のお芝居見てると。真面目な子やなと思いますね。自分がいかに汚れたかと(一同笑)。
片桐
 彼は、作・演出家でもありますからね。
山内
 いや、でも、役者として出たときに、役者の仕事をちゃんとやらなあかん、っていうのをちゃんと持ってるんやろなと思う。
久ヶ沢
 岩井くんの劇団(ハイバイ)の芝居の質もあるよね。人物をちゃんと自分の中に落とし込んでやらないと成立しない、というような劇団だから。作・演出家で、役者もやるって人はいっぱいいるけど、そういうタイプとも違う感じがする。
片桐
 座長芝居じゃないですからね。
久ヶ沢
 うん。座長芝居を見せるような劇団じゃなくて、人物をちゃんと見せるから、どこへ行っても、そういうスタンスでやるんだろうね。
  
——お隣に住む佐奈恵さんが……
山内
 吉本(菜穂子)。どっちかというと職人タイプの役者だから、からむのが楽しい。ちゃんと受け身をとれますし、ちゃんと技かけてくれますから。これがプロレスの試合やったら、名勝負と呼ばれるんやろね(一同笑)。で、ちゃんとテンパってますしね。
  
——「ちゃんとテンパって」?
山内
 ちゃんと危機感を持ってやってる、ってことです。職人さんとして、演じることの怖さを知ってるから、おごらず、常にちゃんと勝負しようと感じを持ってるから、からんでて楽しいんですよ。
片桐
 二人の濃いシーンがありますからねー。
山内
 ああいうシーンって、役者さんのタイプが違うとまた全然違うおもしろさがあるんですけど、吉本やから、おれがここまでやっても大丈夫やな、という感じがありますね。受け身をとられへん奴に技かけたら、死にますからねー。そういう意味では、非常に心強いんですわ。
久ヶ沢
 今回の吉本の役どころは、本人とギャップがある役どころだから、見ていて楽しいですね。
片桐
 最もギャップがあるんだけど、だんだんそう見えてくるから、おもしろいですね。変な声だし。いつも言うんですけど、「おまえ、その声じゃないパターンの声ないの?」って(笑)。
久ヶ沢
 パターンじゃない。地声だからしょうがない。
片桐
 だけど、志村けんさんが、ギャグを言うときの声みたいな感じじゃないですか(一同爆笑)。