『江戸の青空 Keep On Shackin'』(2009年作品)
あの「文七」が五十両もの大金を「芝浜」で落としてしまったからさあ大変。お人好しで見栄っ張りの江戸っ子たちが繰り広げる人情コメディー。人気落語の登場人物が入り乱れてのメタフィクションな大騒動。
脚本:千葉雅子 演出:G2
出演:西岡徳馬、須藤理彩、中村まこと、松永玲子、戸次重幸、有門正太郎、中井出健、蘭香レア、小西遼生、いとうあいこ、松尾貴史、柳家花緑、植本潤、吉田鋼太郎
——この新作のストーリーをご紹介いただけますか?
松尾 (坂東)巳之助くんが演じる徳三郎という青年と、朝倉あきちゃん演じるおせつという幼なじみの二人が、いろいろとあったうえで、最後には結ばれるという話ですね。
植本 その「いろいろ」が話のおもしろさだから、そこを紹介しないと、伝わらないんじゃないですか? それに、ほかにも色恋沙汰がいろいろあるじゃないですか。
松尾 そこは観てのお楽しみということで……
松永 本当にいろいろあるから、簡単には紹介できないですよねぇ。
——今回もいくつかの落語のお噺をもとに、ストーリーを組み上げたということですが……
松永 私は江戸落語に詳しくないので、元のお噺がどんなのか、それをどんなふうに入れたのかは、全然わからないです。
松尾 僕も「紙入れ」ぐらいしか、わからないですね。7つぐらい入ってるんですよね?
——「おせつ徳三郎」「紙入れ」「三年目」「駒長」「夢の酒」「宮戸川」……
松尾 タイトルだけは知ってますけど……ちゃんと聞いたことがあるのは、そのうち二つぐらいしかないかも。
植本 全然知らない……「駒長」って有名なんでしょ?
松尾 そんなん言われても、困っちょう(一同爆笑)
植本 うまいっ。さすが。
松尾 これが字になると(ホームページに載ると)、どんだけバカバカしいか(一同笑)
——みなさんは、前回の
「江戸の青空」にも出演されていますが、前回はいかがでした?
松尾 いやもう緊張に次ぐ緊張で……
松永 そうですね。全身全霊でやらせていただきましたね(一同笑)
松尾 ほんとに飲んでる酒が身に付かなかった(一同爆笑)
植本 いい加減な人が多かったですよね。
松永 うん。あれ? でも、いい加減な人が今回も残っちゃってるよ。(一同笑)。
植本 それに前回は人数が多かった。
松永 そうだよ。女子楽屋は4人で大騒ぎだったもん。
松尾 今回(女子は)二人やから、(朝倉)あきちゃんは胃に穴あくわなー。
松永 (ちょっとムクれて)あたし、たぶん(朝倉あきの)おかあさんと同い年くらいじゃないかな、と思うんですけど。
松尾 え、あきちゃんは、いまいくつ?
——今度、二十歳になるので、公演中には、お酒が飲めるんです……
松尾 よし!(一同笑)
松永 うわー、(わたし)ホントにおかあさんの年齢です。
植本 写真だけ見ると、姉妹みたいだけどね……
松永 (すかさず)恐れ入ります〜(一同笑)
松尾 CGやな(一同爆笑)
息のあった夫婦姿を見せていた松永玲子と柳家花緑のふたり
前作『江戸の青空』より
ある意味前回のクライマックスシーン? 戸次重幸と西岡徳馬
前作『江戸の青空』より
——前回の公演での苦労は?
植本 僕は、吉田鋼太郎さんとほとんどペアで動いてて、ふだんの関係がそのまま舞台に上がってたので、なんの苦労もなかったですね(一同笑)。上方の人が江戸モノに出るのは、大変なんじゃないですか?
松永 そうお? でも、標準語でしょ?
松尾 どっちかと言うと、東京の人が大阪弁でやるほうが苦労するよね。それに僕は関西人にしては、からっとしてるから(一同笑)。今回、苦労するとしたら、早替え(着替え)。
松永 そうそう! きっとそうだよ。
植本 松永がいちばん大変かな?
松永 わたし、なんか(男優)全員の奥さんをやるらしいから。
松尾 いいねー。
植本 「みんなの奥さん」? ちょっといいキャッチコピーだね。
松永 すてきだけど、ちょっとヤラしいですよねー(一同笑)
松尾 「共通夫人」?(一同爆笑)
——松永さんは、前回は柳家花緑さんと夫婦でしたね。
松永 すごく楽しかったんですよ。北海道では、おじいさま(柳家小さん)が行きつけだったお店でお寿司をごちそうになって……
一同 おおーっ!
松永 それはそれは、いいものを食べさせていただきましたよ。
松尾 なんで(そのときに)教えてくれへんの。
松永 だって、「夫婦」でちょっと行きましょうか、っていう会だったから。
松尾 (がっくりと)そうかぁー。
松永 そう。それで前回、楽しかったから、カロッキー(柳家花緑)と二人でG2さんに直訴したんですよ。また、夫婦役でお願いします、って。そしたら、こんな、みんなの嫁になってしまって(一同笑)
松尾 あきちゃんとオレは夫婦にならへんのかな?
松永 ならへんよ。
植本 台本に親子って書いてあるでしょ。
松尾 あきちゃんを連れて、小倉でふぐを食べにいかなあかん。
松永 いいなー。あ、私が後見役でついていきます。二十歳の子をひとりで行かせるわけには、いかないでしょ。
松尾 前回、仙台でおいしいカレー屋をリサーチして、戸次(重幸)くんと二人でホテルから食べに行ったら、定休日で……
松永 それは調べなかったんですか?(一同爆笑)
植本 シゲ(戸次重幸)は、今回、どの役で脱ぐんでしょうね?
松尾 ばあやの役でしょ(一同爆笑)
植本 松尾さんは、今回は変な役はないんですか?
松尾 ないですね。おもしろくない役ばっかり。若い二人の恋路をじゃまするのは、楽しいけど。
植本 いやいや(笑)。これさー、九ちゃん(柳家花緑)もシゲも女役があるのにさ、どうしてもオレに女役が来ないんだよなー。
松永 そうなのよね。なんで封印されてるの? ちょっとでいいから見たいよね。死にものぐるいの着替えをしてもらって(一同笑)
松尾 八(松尾の役のひとつ)と熊(植本の役のひとつ)は、きっとコンビですよね。
植本 はい。
松尾 ここは漫才をしろ、ということですね(一同笑)
——前回は、稽古中に碁の教室がありましたね……
植本 梅沢由香里さんという、CMにも出ていたきれいな先生で……
松尾 希望者は誰でも受けられますよ、って言ったら、残ったのは男だけ。
松永 楽しい思い出でしょう。今回は、そういう美人が来るイベントはないの? やる気を引き出すためのサービスデーみたいなの(一同笑)
松尾 何がいいかな? ま、義太夫の師匠かなぁ……
松永 おばあちゃんが来そうですよ(笑)
——今回はどんな感じに?
松尾 今回は、前回から比べると役者の人数が少ないこともあって、自由度が増しそうな気がしますけど……そんなことないのかな? 僕はいつでも遊んでいるように思われているかもしれませんが、今回は、ゆるい空気感が……
松永 またー? あれ以上に?(一同笑)
松尾 (せきばらい)
松永 前回、ちょうどマイケル(ジャクソン)が亡くなったころだったから、カロッキーが……
松尾 ああ、そや。ムーンウォークをね。
松永 私たちが、「やりーよ、やりーよ」(やりなさいよ)と、けしかけましたよね。
松尾 けしかけた、けしかけた。「いま、やらなあかんやろ。それが落語やろ」って。で、しぶしぶ始めたら、(お客さんに)ウケて、ちょっとしつこいっていうぐらいになって(一同笑)
松永 これ、みんなに「再演なの?」って聞かれません? 再演どころか、前回の続きの話でもなくて、まったく別のお話なのにねぇ。
——では、観に来られる方へメッセージを……
松永 ゆるゆるっと稽古をして、楽しい感じのものに仕上げますので、心がぎすぎすしてらっしゃる方や、「ちょっとつらいな」と思っている方は、観に来ていただけると、ゆるい気持ちになって帰っていただけるんではないかと思います。ゆるっと、がんばります。
植本 淡い恋のストーリーに案外号泣していただけると思います……実はさ、今回、自分の役が、意外と難しいということに気づいたんですよ。「新どん」って丁稚、よく落語には出てくるけど、これを役でやるのは、なかなか……
松尾 うん、難しいよね。子どもだから不完全で未熟、っていう前提で、でも目から鼻へ抜けるような感じもある。妙に大人を出し抜いたりする神経と頭脳を持ってる、しかもバカな人なんですよね(一同笑)。落語の場合は、想像力で補ってもらえるけど、役者がやるのはねー。
植本 この役が来たかーって感じですね。松永は、どの役がいちばんいいの?
松永 うーんとね、すてきだな、と思ったのが、お菊さん。
植本 幽霊のね。これ、いいよね…と、そんな感じで密かに新しい挑戦もさせて頂きますが、濃いキャラクター達がマイペースに暴走しますんで、ぜひぜひ劇場にお越しください。
松尾 私はね、いま「がんばろう日本」って言い過ぎやと思うのね。それはね、がんばってない人に言うことなんですよね。前向きになれるようにするには、ゆるかったり、楽しかったり、ふだんのストレスとは違う、感覚や感情が来たほうがいいんですよ。こういうお芝居を観て、松永さんが言うように気持ちをゆるくして、笑って、号泣に次ぐ大爆笑(一同笑)……そうしてリセットできたらいいと思うんです。前向きに、なんかをつくるためには、一回ゆるめなきゃ……そのためにも観てほしいですね。そういう感じで、僕らも、がんばらずにやらせていただきたい(一同笑)。