――稽古はいかがです?
朝倉 そうですねー、時間がたつのが早いですね。毎日新しい課題が出てきて、それをどう解決するかってことばかり考えていて……必死です。
坂東 追われてるよね。
朝倉 追われてますね、いい意味で。映像しかやったことがなくて、初めての舞台なので、緊張してますけど……映像の仕事では、リハーサルを含めて数回演じれば、そのシーンは終わりという感じですけど、舞台では毎回同じことをする。最初、それが大丈夫かな、って思ってたんですけど、実際、稽古に入ってみると問題はそんなことだけじゃなかったですね(笑)。そんなことよりむしろ、みなさんとナマのやりとりで、自分から投げかけていかなきゃいけないんだ、って……勉強になります。
――巳之助さんは、歌舞伎以外のお芝居は初めてですね。
坂東 そうです。だから、ケータリングがあることから……
朝倉 ケータリング?
坂東 お菓子とか、置いてあるじゃん。ああいうステキな配慮は、歌舞伎の稽古場にはないんですよ(笑)。そういう小さなことから、全然違うんですよね。稽古場の雰囲気も、稽古のスタイルも違うし、役者がやらなければならないことも違う。
 でもね、最終的に初日が開いて、舞台でお客さんに見せるところは、どういう作り方をしようと、どういう内容だろうと、一緒だと思うんですよ。ナマでお客さんのリアクションが返ってくる。その楽しみたるや!
朝倉 その感じはまだ全然わかんないですけど(笑)。舞台からお客様が見えますか?
吉野 照明なんかにもよりますね。(照明が)客席に漏れたりする場面では、前の何列かは見える。一番前で寝てるんだなー、とかね。
朝倉 えー!
坂東 うん。めっちゃわかりますね。見えなくても、気配っていうか、なんか空気感みたいなのがあって。
吉野 うん。わかるわかる。今日のお客さんは乗ってるなーとか、ちょっと冷ややかだなーとかね。
朝倉 やっぱり、日によって違うんですか?
吉野 初日は盛り上がるけれど、次の日に同じ盛り上がりを期待しないほうがいいよ。「昨日はあんなにウケてたのに」って……
坂東 うん。(初日から)24時間後には叩き落とされるからね。
朝倉 えー! それ(初日の盛り上がり)で、私、舞い上がっちゃうかもしれないんですけど。
吉野 でも、毎日、ウケる舞台ができるのが一番いいんだけどね。
坂東 そうなんですよね。

――吉野さんは、G2とはミュージカルの『スーザンを探して』以来で、ストレートなお芝居は初めてですね。
吉野 今回、みんなでホンを読んで、そのシーンをどういうふうに持っていきたいか、って、話し合いながら稽古してるんですけど、ミュージカルだと、まだこの先に歌も踊りもあるから、なんか気持ちが焦ってるの(一同笑)。やらなきゃいけないことがいっぱいあるように思っちゃって。でも、こういう話し合いで、物語を把握していくっていうことは大事だなって思うんです。ミュージカルだとむずかしいけど。
坂東 作業量が多いですもんね。
吉野 そうそう。みんなでこんなに深く掘り下げられないんですよね。だから、こういう稽古はたいへん勉強になるし、ありがたいですね。
朝倉 こんなに時間をかけて、ひとつのことを、しかもみんなで意見を出し合って考えるというのがすごく新鮮で、私なんか、聞いてるだけで楽しいって思っちゃう(笑)。勉強になります、本当に。
吉野 少ない人数のカンパニーだからできるっていうこともありますよね。ミュージカルみたいに30人もいるような舞台ではむずかしい。
坂東 (この舞台は)8人ですからね。


――みなさんの役どころを紹介してもらえますか?
坂東 僕が演じる徳三郎は……なんだろう……草食系男子ではない、とは思うんですよね。
朝倉 ていうか、江戸時代に「草食系男子」って概念がないですよね(一同爆笑)。
坂東 それを言ったらさー(笑)。
朝倉 でも、徳三郎は全然、草食系男子ではないと思うんですよ、私。(徳三郎には)なんか、意地がありますよね。
坂東 うん。徳三郎は、人に対してこうやったらどうなるとか、アプローチや接し方で相手がどう思うかっていう想像力が、いまいちズレてるんだよね。そこはね、自分に酷似してます。僕はすぐ、よけいなことを言うんです。
――たとえば、どんなことを?
坂東 言っちゃうと、それもまたよけいなことになっちゃう(一同爆笑)。
吉野 人がポロって言ったことを、よく拾うよね。
坂東 それがよけいなことですよ(笑)。
吉野 いや、うらやましいよ。
朝倉 そう。全部拾って、返してくれて、ちゃんと着地させてくれるじゃないですか。今回すごく不安だったのが、私はおしゃべりが上手じゃないので、相手の方が寡黙な方だったらなにもコミュニケーションがとれない。「どうしよう」って勝手に考えてたんですけど、会ってみたら、全部拾ってくれるので、楽です(笑)。
吉野 でも、あきちゃんもG2さんの言葉に、するどいツッコミを入れてるじゃない。
坂東 きのう、G2さんが稽古で「紋切り型にはしたくない」って言ったあとに、松尾(貴史)さんがウッキーウッキー言ってるので、なにかと思ったら「モンキー型」(一同笑)。ああいうのいいですね。「よけいなこと王」の松尾さんと、僕の「よけいなこと王子」で、「よけいなこと王国」を築こうとしてるんですよ。
吉野 それは見たいね(一同笑)。
朝倉 でも意外と、庄左衛門さん(松尾)と徳さん(徳三郎=坂東)のやり取りって少ないですよね。
坂東 そうですね。今日の稽古でやる、お富さん(柳家花緑の役)の家ではやり取りがあるけど……そうそう、みなさんにお富さんを見にきてほしいですね。花緑さんの濡れた女役。あれだけで、このお芝居を見に来る価値がありますよ。
朝倉 おせっちゃん(おせつ=朝倉)が、それを見てショックを受けるシーンがあるんですけど、それは、けっこうホントにショックでしたね(一同笑)。
――朝倉さんと「おせつ」も近いんですか?
朝倉 おせっちゃんは、いちばん自分と離れたところにいるキャラクターかも、と思いますね。お嬢様ですからね。使用人で、幼なじみの好きな人である徳さんに対する、彼女の感じがもどかしくて……おせっちゃんは性格的にもまっすぐなタイプなので、素直に行けばいいのにと思うんですよね。うまく受け止めてくれない徳さんもですけど、物語上もいろんな障害があって、そのもどかしさを、自分でもおもしろがりながら、やってます。
坂東 この二人は、お互いに、あと一歩半ずつ歩み寄れば、すぐくっつくんだよ。
朝倉 そんな感じですよね、ホントに。
吉野 そうね。じれったいね。
朝倉 あたしだったら、面倒くさくて、言っちゃいたいって思いますね。おせっちゃんが照れるお芝居には、照れてる自分に照れちゃいますね。おせっちゃんの反応は、こそばゆく、もどかしく感じます。

――吉野さんは、巳之助さんの恋敵?
吉野 いや、恋敵じゃないですよ。でも、ちょっと濡れ場が……
坂東 そうそう。植木に水をやるところですね(一同笑)。
朝倉 そこ?
吉野 そう、そこが見どころ(笑)。植木職人の彦六という役なんですけども、一年前に女房を亡くしまして、その女房に、「後添えはとらない」と言いながらも、いろいろ世間に流され、おせつさんと恋仲になりそうな、ならなそうな……
坂東 彦六なんか、死んじゃえばいいのに……
吉野 すぐ、そう言う(笑)
朝倉 徳さんからしたら、そうですよね。
坂東 いや、いい男なんですよ、彦六っていうのは、ホントに。
吉野 そんなことないよ。揺れてるよ。
坂東 そう、ぐらぐら揺れるんですけどね。頼りない徳ちゃんに比べると、そのゆらゆら感すらステキ、みたいな感じなんですよ。
朝倉 この芝居を見ると、彦六をなんてステキな人なんだろうと思うかもしれないですけど、何回も見てくださったり、早い人は、1回めでもお芝居が終わる前に、かわいい人なんだな、という印象に変わると思う。
吉野 うん。まあ、素直で、いい人です。
坂東 ホントに素直で、ピュアな、かわいいおっさんだよね。


――今回の舞台で楽しみなことは?
坂東 地方へ行って、酒を飲むことです。
朝倉 また、それですか~(一同笑)。
吉野 僕は、まだ楽しみがわからないんですよ。いまはまだ、いっぱいいっぱいで。でも、やっていくうちに楽しみが見つかる感じはしますけどね。
坂東 うん、現時点での楽しみということなら、最初の通し稽古が楽しみですね。
朝倉 そうですね。いま、一つのシーンごとに細かいところを紡いで、つないでいるところなので、それを一本のものに通したときに、どうなるのかというのは、未知の楽しみですね。私はやっぱり、実際に舞台に立つ瞬間がすごく楽しみですね。セットもすごいですしね。
坂東 道具はおもしろいですね。道具も見どころだと思います。
吉野 うん、おもしろいね。(場面)転換がスピーディーだしね。
朝倉 観客のみなさんの想像力で見てもらえるような舞台ですよね。2枚の大っきなパネルが、シーンごとにガーって流れて転換して、世界が変わるような感じなんですよ。それがいまはまだただの板なので、色が塗られて、背景も入ったうえで動いたら、どんなふうになるのか、楽しみです。
坂東 裏では、スタッフも役者もてんやわんやですけどね(一同笑)。
吉野 お二人は、それぞれ一役なんですけど、僕は、彦六以外にもいっぱいあるんですよ。職人とか、回想の兄とか……
坂東 回想の兄の、「早く行ったらいい!」っていうセリフ、好きなんですよ。花緑さんがやられてる新吉という役の、回想シーンのお兄さんの役なんですけど、あそこ、ぜひ言い方を変えずにやってください。あれは見どころですよ。
吉野 一瞬なんですけどね……
朝倉 巳之助さんのツボに入ってるんですね。
坂東 そう。あそこ大好きなの、おれ(笑)。
朝倉 私、あれが楽しみです--いろんな落語が散りばめられているのをG2さんに稽古中に話していただくんですけど、そのあとに、どの噺はこういう話だと、花緑さんに教えていただけるんですよ。これ、ちょっと贅沢だなーと思って。
坂東 花緑ペディアに、松尾ペディアだからね。
――その百戦錬磨の共演者の方々と一緒にやってみて、いかがです?
朝倉 みなさんの、ぽーんとここ(自分の胸をさして)まで飛んでくるようなセリフが気持ちいいです。お芝居なんですけど、なんかこう、本当に自分がここにいて、ここに生きている、それに向かって投げてくれるっていうのがわかるんです。何回もやるうちに、ニュアンスが変わってきたりもするじゃないですか。それに対して、こうすればよかったのかな、とか、反省したりもするんですけど、それが新鮮で、楽しいですし、そういうふうに影響を与えてくれるようなセリフを投げてくれるみなさんが、すごくおもしろい。
坂東 ジャンルもさまざまな方々じゃないですか。花緑さんは噺家だし、チームナックスの戸次(重幸)さんがいて、ナイロン(100℃)の松永(玲子)さんがいて、花組芝居の植本(潤)さんがいて、吉野さんはミュージカルで活躍されてて、映像でやってきたあきちゃんがいて、僕は歌舞伎役者。そうでなくても違う人間だから、みんなアプローチのしかたが違うんですけど、共通してるのは、いま、あきちゃんが言ってたのと同じようなことなんですけど、距離の取り方がみなさんものすごく正確で……物理的な距離もそうだし、心の距離もそうだし。江戸時代の話だし、リアリティーを追求する必要はないんですけど、自然とくっついてくるリアリティーがあると思うんです。舞台は大きく言えばファンタジーだと思うんですけど、そのなかに、イヤみのないリアリティーが込められている。そういうところを吸収して帰りたいなと思います。
吉野 みなさんベテランですごい方ばかりなので、そこにちゃんと身を置きたいな、と思いますね。自分の考えてることとか、キャラクターや、その思いとかをしっかり作って、土俵の上にポンと出して、みんなで戦っていくというか……そういうことをしないとダメだと思うので……なんて言うのかな、自分からしっかり発信して、それを受けてもらい、返してもらうっていうキャッチボールがつながると、たいへんおもしろいものになると思うんですよ。一人ひとり畑が違う異種格闘技みたいなところもおもしろみで、それが『江戸の青空』という作品でつながればいいなと。
坂東 空っていうのは、どこまでもつながっていますからね。
吉野 うまいっ!(一同笑)
朝倉 でも、ホントに私、吉野さんとも、巳之助さんとも、みなさんとも、しっかり自分の力で戦いたいなと思ってるんです。戦ったうえで、みなさんにお見せするときには、同じ戦をともに戦ってきた戦友みたいな感じで、いろんなところに向かっていけたらいいなって思ってます。


――最後に、これから見に来られる方にメッセージを。
吉野 そうですねー……主人公がけっこうね、もどかしくて、イライラする話なので、そのイライラ感を楽しんでいただければ(笑)。お茶の間みたいな感じで……
坂東 テレビに話しかけちゃうおばちゃんの心持ちね(一同笑)。
吉野 そうそう。ああいう感じで一緒に楽しみながら見ていただけるといいんじゃないかと思います。
朝倉 前作と違って、一人の主人公の物語になっていますから、共感しやすいかな、って思いますね。
坂東 プレッシャーかけてきたよ、この子はー。
朝倉 えー、なんで、なんで?
吉野 大丈夫、大丈夫。(坂東と朝倉に)二人が主人公の話だから。
朝倉 でも、恋愛の物語がいっぱい入ってますよね。それが私、女性として、すごく好きなんですよ。
吉野 さまざなカップルがいっぱい出てくるよね。
坂東 恋愛福袋ですから。
吉野 いいこと言うねぇ。
朝倉 そうですかぁ。
坂東 「そうですか」って!
朝倉 松永さんとお話ししてたんですけど、「あの人、ちょっとタイプね」「え、そうぉー? あたしこっちなんだけど」みたいな、そういうやりとりが、女性同士だと楽しめるんじゃないかなと思います。男の人にはちょっとツライかもしれないけれど(笑)。
――ちなみに朝倉さんのタイプは?
朝倉 あたしですかー……意外と、長兵衛さん(徳三郎の叔父=戸次)、好きですね。私、じれったいのとか、そういうのも大切だっていうのは、わかるんですけど、それを体感している自分も恥ずかしくなっちゃうタイプなので、そういうのなしで「もういいぜ」っていう……
吉野 江戸っ子の代表みたいな……
朝倉 そうです。そういう、さっぱりしているところが、大好きです。
――では、最後に巳之助さん。
坂東 僕のタイプは彦六さんです。
吉野 そうじゃなくて(一同笑)。
朝倉 しかも電撃発言。あんなに嫌いって言ってたのに。
坂東 徳三郎からすれば恋敵だから嫌いだけれど、おれ、女だったら彦六さんと結婚したい。
――あの……メッセージを。
坂東 じゃ、簡潔にひとこと――絶対おもしろいから。以上だ!
吉野 かっこいい(一同笑)。