今年はアメリカだ!! 過去2回、演劇の街ロンドンを旅して現地の空気を感じて来たG2。
名作ミュージカル『THE LIGHT IN THE PIAZZA』の演出を控え、
いよいよ聖地ブロードウェイを目指すことに。
今回もハプニング満載?でミュージカルのおもしろさをお伝えいたします。
▼#1
いざシカゴへ!


▼#2
シカゴ乗り物三昧


▼#3
ライト・イン・ザ・ピアッツア!


▼#4
ニューヨーク上空380m


▼#5
中村座N.Y.公演


▼#6
怒濤の17時間


▼#7
思いをめぐらせて


 はい、アメリカ日記です。
 日記って言ってもね、もう、アメリカへ行ったあの日々はかれこれ2ヶ月以上前のこと。
なにしろ、「憑神」の稽古前だったのに、もう、演舞場の公演もすべて終了しました。ってくらいに日が経ってる。あ、ご来場いただきました皆様、本当にあがりがとうございました。
 カーテンコールで舞台に上げられてしまい、(これ、私にとっては本当に例外的な事件で、今まで絶対に拒否してきたんですけど、何しろ橋之助さんったら、出ていかないと客席にまで迎えにくるんですもの)暖かい皆様の拍手の音圧に押され(いや、まさしく音に押されるってああいうことを言うんですねえ)なんだか、血行が良くなって健康な私です。

 2001年、まだMOTHERという劇団をやっていて、稽古が終わって飲みに行って、「おいおい、まだ台本書けてない作家が酒場へ来てもいいのか?」と責められながらも、タイ料理に舌鼓を打ち、ぐいぐいアルコール摂取の限りを尽くしてた、まさにその時、先に帰宅した劇団員から電話。「大変なことになってるよ。戦争になるよ。ビルが燃えているよ」あの日、9月11日、テレビに次々と映し出される映像に、「世界はどうなってしまうのか?」と思った人は多いのでは。私の場合、そのテレビを観ている人から間接的に次々と電話で報告されながら想像を逞しくして、(そのタイ料理屋にはテレビが無かったので)世界が終わる日の曼荼羅を描いてしまったのも、それはそれで、おぞましく思い出したくない体験。
 そのグラウンド・ゼロを今さらながらだけど見ておこうと向かってはみたものの……なんのことはない、ただの工事現場になっていた。2010年の完成にむけて新しいビルが建設中、ということらしい。ついこの間までは工事現場を隠すパネルに、9・11当時の写真やら、追悼のなんだかんだが飾られていたらしいが、それも撤去されて、本当にフツーの工事現場になっていた。あまりにフツーだったので、写真を撮ることもしなかったが、これは悔やまれる。フツーというところが、かえって恐い。と日本に帰ってきた今は思える。


 NYをいろいろ歩いてみた。18年前とかなり変わっているような気もするけれど、何も変わっちゃいないような気もする。18年前に夜の大半を過ごしたエセックス・ホテルのバーへ行けば何か感慨もあったかもしれないが、結局、行かなかった。五番街は変わってない印象が強く、リトル・イタリーはかなり変貌していたように思う。なにせイタリア料理店はほとんど姿を消し、イキな小物屋、洋服屋、カバン屋、などなど。なんていったかな、ノース・オブ・リトル・イタリーの頭文字をとって、なんとかって言う新しい呼び名がついていて、いわゆる今もっともヒップなエリアなんだとか。興味のある人はニューヨークの観光書を読んでちょ。マルベリーストリート付近で「これは珍しい」とばかりに買った小物は、後ですべて新宿で手に入ることがわかった。恐るべし日本。

  国連にも行ってみたが、はじめて見る国連のドームは、なんだか小さかった。もっと大きいものだと思っていた。なにしろ、教科書にのっていた国連は、全世界が詰まっているドームに思えたもの。


国連の斜め向かいに立っている黒い巨塔。
これ、ゴジラ松井が住んでいるマンション。日本人にとっては、
きっとこっちのほうが観光名所になっているに違いない。

 それにしても、9・11以来、主な観光名所に入るには、飛行機に乗るのと同じ手荷物検査を受ける。国連の中の展示場や売店に入るのも、エンパイア・ステート・ビルに登るにも、自由の女神を見物するフェリーに乗るのにも、いちいち手荷物をX線検査、金属探知機のゲートを潜る。そのたびごとに「テロ」を意識するけれど、荷物を回収したとたんに平和しか感じていない平和ボケの日本人の私。



 フェリーに乗って自由の女神を眺めてみると、『海の上のピアニスト』だっけ? 『ギャング・オブ・アメリカ』だっけ? 何かの映画の冒頭のシーンで「自由の女神を眺める移民たち」の気分を味わえる。移民たちはマンハッタン島に上陸する前に必ずこの前を船で通らなくてはならない。何か希望を求めて、新しい土地に挑戦(逃げてきた人もいるだろうけど)しようとした人たちの気持ちがなんとなくわかる。よく考えてみりゃ、アメリカって国はそういう人とその子孫だけで構成された国だから、他の国と断然「国民の気質」が違うのも当たり前のことだな。と当たり前のことに感動するのも、これも自由の女神の力か。18年前は「ゴーストバスター」たちがこの自由の女神を操縦してNYの街を闊歩したのであった。ところで英語では「自由の像」なのに、誰だろう「女神」と最初に訳した人は。

 平成中村座の他に今回の旅行を利用して2本のミュージカル作品を観た。


 1本は、これはもうホントに感動したんだけれど、『スプリング・アウェイクニング』。日本では「春のめざめ」という邦題で紹介されている。(これも誰が訳したのだろう?)今年のトニー賞を受賞した作品だ。見る前からオフ・ブロードウェイから来た作品だということ。なぜかユージン・オニール劇場というミュージカルとは縁の無さそうな劇場での公演というのも気になる。
 劇場のもぎりを見て「へえ」と驚いたことがある。あのスーパーマーケットのレジのような赤外線の「ピッ」と音をたてる機械の携帯ヴァージョンを持ったもぎりの兄ちゃんが、チケットのバーコードへ赤外線を当てる。見事「ピッ」と音がすれば、通過OK。便利だな。日本もこれ取り入れたらいいのに。
 『スプリング・アウェイクニング』は観ていて、とにかく興奮した。
 ただでさえミュージカルをやるには小さい劇場。その舞台上にも客席を設けて、さらに小さくしてしまっている。オケピのない劇場だからバンドはオンステージ。少数精鋭で軽快なロックバンド。出演者は先生役のお二人以外は、若い人ばっか。舞台装置は大きな転換はないけれど、いっぱい吊られた電球や、いろんな遊びが隠された壁や、照明や、人の動きで、退屈させない。振付も斬新だけれど、前衛に走らず好感。なにより曲に入るタイミングや終わるタイミングや、そういうことがいちいち気持ち良い。ほんの少し何かが違うだけで、一瞬のうちに世界を変える演出。あと、1幕のラストに入るセックスシーンがリアルでいい。すごくH。全体の内容も結構ハード。結局、「彼」は死んじゃったりするしね。日本に帰ってきてから知ったんだけれど、これって19世紀のドイツで発禁となった戯曲らしい。邦題にするなら「春のめざめ」よりも「性のめざめ」とか「思春期」とかすべき内容。若さゆえの脆さや美しさや汚さや優しさや残酷さ、葛藤やら興奮やら感動やらが詰まったお芝居。そう、お芝居がちゃんとお芝居しててよかった。
「これは、日本版があるなら、ぜったいG2が演出するべきでしょう! 日本の演出家で私以外に誰がやれよう?」と、なんだか過剰な使命感に燃える。「帰国したら、どこが権利をとったか調べて『演出させてくれっ!』と直談判しよう。土下座も辞せずだっ!」と興奮するも、帰国後調べてもらったら某巨大劇団が権利を買い取ったらしい。あの劇団では私の演出はあり得ない。プチ挫折を味わう。


 もう一本は、後から考えると「何もNYで観なくったって」と大多数に責められそうな『ヘア・スプレー』。何しろ、折しもちょうど日本で上演されていた演目。
 でも、観てよかった。大好きなタイプの『スプリング……』に比べて、嫌いなタイプのミュージカル。客席に笑顔を向けて楽しく踊り、歌うという軽快なパターン。なのに……。あそこまでやられると、それはそれで痛快だった。半端じゃないのよ。主人公の太りっぷりと、動きっぷりが。ここまでやるか? という笑いがこみ上げてくる。客層もティーンが多いみたいで、幕開きとともに黄色い声援が飛ぶ。母親を男性が演じているのもキモくてこの場合効果的。見終わった後は、あの太った女優さんがいて初めて成立する企画だな。と思ったのだが、よく考えてみれば、日本公演中も、NYでも公演している。つまり、あれをやれる女優さんが少なくとも二人はいるっていうこと? 恐るべし、ブロードウェイの層の厚さよ。

 本当は、NYの店の接客態度の悪さについて、くどくど書こうと思っていたのですが、2ヶ月も過ぎてしまったので怒りも薄れてしまい、あまつさえ何について怒っていたのさえ忘れてしまったので、それについては書かない。いや、書けない。人間は忘れる動物なのね。ただ、NYでのメモ書きの一行。「だからアメリカにはファーストクラスが必要」については、今読み返しても納得である。普通のサービスが悪すぎるために、ファーストクラスを設定しないとやっていけないのだアメリカは。世界の先進国でも「貴族」が存在しない珍しい国なのに。自由と平等の国のはずなのに。もったいない。

ところで、知りあいに「日記読んでますよ」と言われるたびに、なぜか「すみません」と謝ってしまう私。どうも「日記」というものが苦手だ。ブログ人口ってどのくらいあるんだろう? 人に読まれるための日記を書くのが好きな人が多いのね。私の場合、それって苦痛。っていうか、人に読まれない日記も苦手なんだけど。そういうわけで、アメリカ日記は消極的撤退、今回でお終い。



G2のアメリカ日記連載は今回で終了です。
ご愛読ありがとうございました。
また次の機会にお会いしましょう。


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『憑神』

東京新橋演舞場公演へのご来場まことにありがとうございました。
10月1日〜25日は大阪松竹座にて公演。


9月11日
2001年9月11日朝、あのアメリカ同時多発テロ事件が発生しました。日本では11日の夜10時頃にあたり、生放送のニュース番組内でそのまま経過が伝えられた。


グラウンド・ゼロ
もともとは「爆心地」を示す言葉だが、
9月11日のテロで破壊されたワールドトレードセンタービル跡地をそう呼称することがある。





























リトル・イタリーの変貌

90年代後半、当時地価の安かったリトル・イタリーの北部にブティックやショップが出店するようになり、急激にトレンドスポットとして発展を遂げた。North Of Little ITAlyの頭文字から、NOLITA(ノリータ)地区と呼ばれている。

マルベリーストリート
リトル・イタリーのメインストリート












































































『スプリング・アウェイクニング』
時は、性教育などなかった1890年代のドイツ。10代の若者達の自我の目覚め。コントロールできない感情や自分の身体の変化に気づき、もてあましやがてそれぞれが大人への道を手探りで歩み始める。誰もが経験する10代の複雑な時期を華やかなダンスとロックで表現。 2007年のトニー賞にて8部門を受賞した話題の作品。








































『ヘア・スプレー』
ジョン・ウォーターズの同名映画作品(1988)のミュージカル化。
人種差別が色濃い60年代を背景に、太めの女子高生トレイシーが巻き起こすポップでハッピーなサクセスストーリー。
2003年のトニー賞を8部門で受賞している。
また2007年にはミュージカル映画としてリメイクされている。(日本での公開は10月中旬)












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